心疾患(循環器疾患)による障害
1、心疾患による障害は、弁疾患、心筋疾患、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、難治性不整脈、大動脈疾患、先天性心疾患に区分します。
 
2、心疾患による障害の程度は、呼吸困難、心悸亢進、尿量減少、夜間多尿、チアノーゼ、浮腫等の臨床症状、X線、心電図等の検査成績、一般状態、治療および病状の経過等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするもの。
 
3、疾患別に各等級に相当すると認められるものを一部例示しますと、次の通りです
(ア)弁疾患
1級病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級
・人工弁を装着術後、6ヵ月以上経過しているが、なお病状をあらわす臨床所見が5以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
 ・異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はに該当るもの
3級
人工弁を装着したもの
異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当るもの
注1. 複数の人工弁置換術を受けている者にたっても、原則3級相当とする。
注2. 抗凝固薬使用による出血傾向については、重要のものを除き認定の対象としない。
  
 NYHA心機能分類
   NYHAとはNew York Heart Association(ニューヨーク心臓協会)の略。
NYHAⅠ度心疾患はあるが症状は無い
NYHAⅡ度安静時は症状が無いが活動時に症状がある
NYHAⅢ度
安静時は症状が無いが活動時に強く症状が出て日常生活が厳しく制限される
NYHAⅣ度軽度の活動でも症状が出て安静時でも心疾患発作の危険性がある
 
 NYHA心機能分類とBNP値の関係
NYHA基準値BNP20 pg/mL以下
NYHAⅠ度BNP20 pg/mL~50pg/mL
NYHAⅡ度BNP50 pg/mL~100pg/mL
 NYHAⅢ度BNP100 pg/mL~200pg/mL
 NYHAⅣ度BNP200 pg/mL~300pg/mL
 
 
(イ)心筋疾患
1級
異常検査所見のFに加えて病状をあらわす臨床所見が5以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
2級
・ 異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上、かつ、状態区分表のウ又はエに該当するもの
・異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級
・EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
・異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
注. 肥大型心筋症は、心室の収縮は良好に保たれるが、心筋肥大による心室拡張機能障害や左室流失路狭窄に伴う左室流失路圧格差などが病状の基本となっている。
したがってEF値が障害認定にあたり、参考とならないことが多く、臨床所見や心電図所見、胸部X線検査、心臓エコー検査所見なども参考ととして総合的に障害等級を判断する。
 
(ウ)虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
 1級
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
 2級
異常検査所見が2つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウまたはエに該当するもの
 3級
異常検査所見が1つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
(注)冠動脈疾患とは、主要冠動脈に少なくとも1ヵ所の有意狭窄を持つ。あるいは、冠攣縮が証明されたものをいい、冠動脈造影が施行されていなくとも心電図、心エコー図、核医学検査等で明らかに冠動脈疾患と考えられるものを含む。
 
(エ)難治性不整脈
 1級
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
 2級
・異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
・異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見及び病をあら
わす臨床所見5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するも
 3級
・ペースメーカー、ICDを装着したもの
・異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見及び病状をあら わす臨床所見1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当する も
注1. 難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにもかかわらず、それが改善しない状態をいう。
注2. 心房細胞は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とならないが、心不全を合併したり、ペースメーカの装着を要する場合には認定の対象となる。
 
 心臓ペースメーカー、またはICD(植込み型除細動器)または人工弁を装着したした場合の障害の程度を認定すべき日は、それらを装着した日(初診から起算して1年6ヵ月を越えた場合を除く。)とします。
 
 
(オ)大動脈疾患
 3級
・胸部大動脈解離(Stanford分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管 を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
・胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの
 注1. Stanford分類A型:上行大動脈に乖離がある。Stanford分類B型:上行大動脈まで乖離が及んでないもの。
注2. 大動脈瘤とは、大動脈の一部が嚢状又は紡錘上に拡張した状態で、先天性大動脈疾患や動脈硬化(アテローム硬化)、膠原病などが原因となる。これのみでは認定の対象とはならないが、原疾患の活動性や手術による合併症が見られる場合には、総合的に判断する。
注3. 胸部大動脈瘤には、胸部大動脈瘤も含まれる。
注4. 難治性高血圧とは、塩分制限などの生活習慣の修正を行った上で、適切な薬剤3薬以上の降圧薬を適切な用量で継続投与しても、なお、収縮期血圧が140㎜Hg以上又は拡張期血圧が90㎜Hg以上のもの。
注5. 大動脈疾患では、特殊な例を除いて心不全を呈することなく、また最新の医学の進歩はあるが、完全治癒を望める疾患ではない。したがって、一般的には1・2級には該当しないが、本傷病に関連した合併症(周辺臓器への圧迫症状など)の程度や手術の後遺症によっては、さらに上位に等級に認定する。
・大動脈瘤の定義:嚢状のもは大きさを問わず、紡錘状のものは、正常(2.5~3㎝)の1.5倍以上のものをいう。(2倍以上は手術が必要。)
・人工血管にはステントグラフトも含まれる。
 
(カ)先天性心疾患
 1級病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
 2級
・異常検査所見が2つ以上及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
・Eisenmenger化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているので、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
 3級
・異常検査所見のC、D、E、Gのうち1つ以上の所見及び病状をあら わす臨床
所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又ウはに該当るもの
・肺体血流比1.5以上の左右短絡、平均肺動脈収縮期圧50㎜Hg以上のもので、
かつ、一般状態区分表のイ又ウに該当するもの
 
 (キ) 重症心不全
 1級
・心臓移植
・人工心臓
 2級
  CRT(心臓再同期医療機器)
・CRTーD(除細動器機機能付き心臓再同期医療器機)
 心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級は、上記のとおりとします。ただし、
 術後は上記の障害等級に認定しますが、1~2年程度観察したうえで症状が安定してい 
 るときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を済認定します。
 
  心疾患の検査での異常検査所見を一部示しますと、次のとおりです。
 区分異 常 検 査 所 見
 A
安静時の心電図において、0.2mⅤ以上のSTの低下もしくは0.5mⅤ以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの
 B負荷心電図(6Mets未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの
 C
胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの
 D
心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの
 E心電図で、重症な頻脈性又は除脈性不整脈所見のあるもの
 F左室駆出率(EF)40%以下のもの
 G
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/mL相当を超えるもの
 H
重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの
 L心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの
注1. 原則として、異常検査所見があるもの全てについて、それに該当する心電図等を提出(添付)する。
注2.「F」についての補足
心不全の原因には、収縮機能不全と拡張機能不全とがあります。
近年、心不全症例の約40%はEF値が保持されており、このような例での心不全は左室拡張不全機能障害によるものとされています。しかしながら、現時点において拡張機能不全を簡便に判断する検査方法は確立されていません。
左室拡張末期圧基準値(5~12㎜Hg)をかなり超える場合、パルスドラプラ法による左室流入血流速度波形を用いる方法が一般的です。この血流速度波形は急速流入期血流速度波形(E波)と心房収縮期血流速度波形(A波)からなり、E/A比が1.5以上の場合は、重度の拡張機能障害になります。
注3.「G」についての補足
心不全の進行に伴い、神経体液性因子が血液中に増加することが確認され、心不全の程度を評価する上で有用であることが知られています。中でも、BNP値(心室で生合成され、心不全により分泌が亢進)は、心不全の重症度を評価する上でよく使用されるNYHA分類の重症度と良好な相関性を持つことが知られています。この値が常に100pg/mL以上の場合は、NYHA心機能分類でⅡ度以上と考えられ、200pg/mL以上では、心不全状態が進行していると判断されます。
注4.「H」についての補足
すでに冠動脈血行再建が完了している場合を除きます。
 
 心疾患による障害の程度を一般状態区分表で示すと次のとおりです。
 一般状態区分表
 区分一  般 状 態
 ア
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
 イ
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの  例えば、軽い家事、事務など
 ウ
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
 エ
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力で屋外への外出がほぼ不可能となったもの
 オ
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの
 
 (参考)上記区分を身体活動能力にあてはめると概ね次のとおりになります。
 区分 身 体 活 動 能 力 
 ア
 6Mets以上
 イ 4Mets以上6Mets未満
 ウ 3Mets以上4Mets未満
 エ 2Mets以上3Mets未満
 オ 2Mets未満
 注. Metsとは、代謝当量をいい、安静時の酸素摂取量(3.5mL/㎏体重/分)を1Metsとして活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示すものである。